この手を、もう離さない
~調査の果てに深まった、ふたりの絆~
ハワイから帰国して数日。
彼女は、今もふとした瞬間に、あの報告書のページを思い出す。
建築現場で泥まみれになって働く夫の姿。
夜のコンビニで黙々とレジを打つ横顔。
「ねえ、なんで言わなかったの?」
空港からの帰り道、彼女がぽつりと尋ねると、彼は照れくさそうに笑って言った。
「バレたら格好つかないじゃん。サプライズだったんだよ」
それを聞いたとき、彼女は胸がいっぱいになって、ただ夫の手を強く握りしめた。
その手は、粗くて、少し傷があって、でもとてもあたたかかった。
調査費は、決して安くはなかった。
けれど、あの報告書がなければ、こんなふうに心から感謝することも、涙の意味を知ることもできなかっただろう。
今、彼女の部屋にはハワイ(オワフ島)で撮った写真が飾られている。
ふたりで笑い合うその姿の隣には、あの調査報告書の封筒が、大切にしまわれている。
「疑ったからこそ、信じられるようになった」
そう言えるようになった自分を、少しだけ誇りに思う。
探偵としての私たちの役目はもう終わった。
だが、心のどこかで、この夫婦の未来が穏やかであることを願っている。
真実を知ったその先に、愛が深まることもある。
それを信じられるようになったのは、私たち自身もまた、
少しだけ誰かに救われているからかもしれない。