静かなる証明
~裏切りの果てに、彼女が見つけた未来~
「浮気なんて、うちには関係ないと思ってたんです」
その言葉を、彼女は震える声で吐き出した。
30代半ば、子どもはいない。共働き。
穏やかだったはずの日常は、一本のメッセージから崩れた。
──“昨日はありがとう。また会えるの楽しみにしてるね♡”
見慣れない女の名前。夫のスマートフォン。
指先が冷たくなり、現実感が遠のいていく。
彼女の依頼で調査を開始したのは、4月の終わり。
尾行、張り込み、証拠収集。
彼女は何度も心が折れそうになりながら、それでも調査をやめなかった。
「知りたいんです。ちゃんと、現実を」
3週間後、報告書が完成した。
そこには、夫が他の女性とホテルに入る写真。
腕を組み、笑い合う姿。平然と虚言を重ねるLINEのやり取り──。
報告書を受け取った彼女は、黙ってページをめくった。
そして涙をこらえ、静かに言った。
「……ありがとうございます。これで終われます」
その後、彼女は弁護士とともに夫に離婚を申し出た。
証拠の力は強い。夫は言い逃れできず、慰謝料300万円で合意。
離婚は円満に成立した。
春が過ぎ、夏が始まる頃。
彼女は髪を短く切り、新しい職場に向かう姿を見せてくれた。
「ようやく、前を向けます」
その背中にはもう、迷いはなかった。
俺たち探偵の仕事は、真実を暴くことじゃない。
真実を、依頼者の未来に変えることだ。
今日もどこかで、また誰かの人生が静かに動き出している。
俺はその背中を、そっと見送るだけだ。