欲という名の甘い罠~交際クラブ潜入調査記~

❹📖探偵小説🖋️代表が作家👀短編🔖1分で読める

~潜入調査が暴いた、交際クラブ詐欺の実態~

「1回会えば1万円。エッチありなら3万円~10万円」

女が男に金を払う“ママ活形式”。
会うたびに報酬がもらえる。まるで夢のような話だった。

最初の数人は、確かに金を出した。
男は味をしめた。「もっと良い女性と出会いたい」
そう思ったときには、もう仕掛けられていた。

「プラチナ」「ダイヤ」「ブラックエグゼクティブ」
ランクアップの名目で、20万、50万、300万、ついには500万円を運営に振り込んだ。

手元には“預かり証券”が発行されていた。
「返金保証つき。もし紹介がうまくいかなければ、全額返金します」
そう堂々と書かれていた。

だが、解約を申し出たその日から、空気が変わった。

「あなたが会った女性、梅毒だったそうです」
「数ヶ月後に亡くなったんです。遺族があなたを訴えると……」
「今ここで騒げば、慰謝料請求が正式に届くかもしれませんよ?」

男は凍りついた。
でも、それはすべて虚構だった。

僕たちはこの交際クラブに複数名で潜入し、段階的に調査を続けていた。
最初の1人目は一般会員として、次はプラチナ会員、最後の1人は「ランク交渉中」のふりをして、深く入り込んだ。

紹介された女性は、どの調査員にも共通していた。
“死んだ”はずの女は、別の会員と今もやりとりを続けていた。

会話の録音。
ランクアップ契約書。
“死亡”通知メールとその直後のログイン履歴。
僕たちはすべて、押さえた。

だが、これで終わりじゃない。
情報を集めた先にいる“本丸”――つまり、運営のトップを突き止める必要があった。

資料の断片、契約書の筆跡、金の流れ…。
繋ぎ合わせていくうちに、ひとりの男の影が浮かび上がった。
名前は偽名、法人登記もカモフラージュ。でも、居場所は――割り出せた。

都内の高級マンション。
家賃は軽く月50万を超える物件。
警備が厳しく、車寄せには黒塗りの外車が並ぶ。

僕たちは車で数日間、交代で張り込んだ。
出入りする人間、タクシーの利用頻度。
誰と何時に会っているか。どこに何分滞在していたか。

深夜2時、彼が出てくる。
ベージュのトレンチ、肩にシャネルのバッグをかけた若い女と一緒だった。

ふたりの会話は風に流れて消えたが、
その女が“死亡した”とされるサクラの一人だった。

この瞬間で、詰みだった。

このクラブの運営は、完全に詐欺だった。
男の“欲望”に付け入り、制度として搾取し、脅しで沈黙させる。

その構造は巧妙だった。交際クラブという仮面の下に潜む悪意は、普通の目では見抜けなかった。

だが、僕たちには見えた。
潜入という刃を握って、俺たちはその闇を静かに切り裂いた。

報告書を提出した夜、
依頼者の男から、短くLINEが届いた。

「馬鹿だった。でも、救われました。
あんたがいてくれて、本当に良かったです」

画面の文字は淡白だったが、そこに滲んでいたのは、悔しさ、後悔、そして、どこか安堵にも似た微かな感情だった。

探偵の仕事は「暴く」ことじゃない。
「繋ぎなおす」ことだと、俺は思っている。

信じた自分を、もう一度信じられるように。
失った尊厳を、少しでも取り戻せるように。
怒りだけじゃなく、次へ進む勇気を持てるように。

誰かの人生のどこかに、そっと光を差す。
その光は小さくても――それが、俺たちの“灯”だ。

今夜もまた、誰かの闇を静かに照らすために、僕は机に向かう。
それが、僕の生きてきた意味だから。

✒️ 作家のことば|光の届くところまで

この物語は、単なる詐欺の実録ではありません。

人はときに、間違った選択をしてしまいます。
甘い言葉に心が揺れ、ほんの小さな欲に手を伸ばす。
その先に待っていたのが罠であっても、誰かを責められるほど、私たちは完璧じゃない。

だからこそ――
「どう立ち直るのか」
「その過程に、どんな光が差せるのか」
それを描くことこそが、物語の本質だと私は信じています。

探偵という職業は、ただ“暴く”だけの仕事ではありません。
事実の裏にある、誰にも言えなかった後悔や、自分自身を責める声。
その“崩れてしまった何か”を、もう一度、繋ぎなおすための仕事でもあるのです。

人は、過ちによって壊れるのではなく、
「自分をもう一度信じられるかどうか」で救われる。

私の描く物語が、その小さな一歩の背中を、ほんの少しでもそっと押せたなら。
それは作家として、この上ない喜びです。

光は、すべてを照らす必要はありません。
ただ、「闇の中にいる誰かの足元」まで届けば、それでいい。

この作品が、あなたの心のどこかに、小さな灯をともせますように。