疑いの向こうにあったもの
~浮気を疑った妻が知った、夫の真実の愛~
「最近、夫の帰りが急に遅くなって……」
30代後半の女性は、心細げな表情でそう言った。
スマホには既読スルー、残業という割に領収書のない日々。浮気ではないかと、心が不安でいっぱいだという。
「本当のことが知りたいんです。たとえ裏切られていても…」
その覚悟に、私たちは調査を開始した。
だが──浮気の兆候は一切見つからなかった。
彼が立ち寄っていたのは、繁華街の居酒屋、早朝の清掃現場、コンビニの深夜シフト。日曜日には建築現場での片付け作業。
すべて、短期バイトの掛け持ちだった。
財布の中のレシートは、旅行代理店のもの。メモには「Hawaii」の文字。
1週間の調査で、私たちは確信した。
この男は、誰のためにも黙って汗を流していた。
報告書を渡す日、彼女は封を開ける手を震わせていた。
「浮気じゃ……ないんですね」
ページをめくりながら、彼女の目に涙が滲んだ。
「……バカだなぁ。そんなの、言ってくれたらよかったのに」
彼女は微笑んだ。こんなにも、夫が自分を想ってくれていたという事実に、深く打たれていた。
後日、彼女から一通の写真付きのハガキが届いた。
ハワイの浜辺で笑い合う夫婦の姿。
「調査費は少しかかりましたが、それ以上の“信じる理由”を得られました。本当にありがとうございました」
探偵の仕事は、必ずしも裏切りを暴くためじゃない。
ときに、それは“信じてもいい”という確証を、静かに渡すための行為だ。
真実は、見た目とは違う場所にひっそりとある。
それを見つけることが、俺たちの仕事だ。
そして今日もまた、誰かの疑いが、愛に変わる瞬間を見届ける。
それは、調査員にとっても、かけがえのない報酬なのだ。
②後編「この手をもう離さない」前作の続編としてのハワイ旅行後のエピローグ